[ 個人情報保護方針 ]
さくら病院小児科 中川恒夫
1.
タバコとは
タバコの煙には、4,000種類の化学物質が含まれ、その内200種類以上は有害物質です。1)末梢血管を収縮させ、また中毒症の原因であるニコチン、2)発癌物質であるタール、3)ヘモグロビンと強力に結合して酸素運搬を阻害し全身に酸素供給不足を起こす一酸化炭素、 4)刺激物質であるアンモニアが主なものです。 タバコは増加している肺癌・虚血性心・脳疾患などの最大の原因ですが、小児にとっても大きな健康被害を起こします。
2.
受動喫煙(強制喫煙)
受動喫煙とは喫煙者の吸っているタバコの点火部から発生する副流煙と、吐き出す呼出煙(環境タバコ煙Environmental Tobacco Smoke: ETS)を吸うことです。副流煙のほうが喫煙者の吸う主流煙より、高濃度の有害物質が含まれています。
−1) 胎児に対する影響
a.
流産・早産・周産期死亡・先天異常の増加
b.
出生体重の低下 従来より明らかでしたが、厚労省の平成12年の乳幼児身体発育調査報告書によると、母親の妊娠中の喫煙は10.0%(10年前は5.6%)に増え、喫煙本数が多いほど、出生児の身長・体重とも低下する傾向です。1日11本以上吸うと0.6〜0.9cm小さく120〜130g軽く、また父親および同居者の喫煙により男児で小さくなる傾向が見られました。
−2) 出生後の乳幼児・小児に対する影響
乳幼児突然死症候群(SIDS) 母の喫煙で5倍、父の喫煙(母非喫煙)で約40%のリスクが増え、うつ伏せ寝が健康教育により減少した現在、喫煙がSIDSの最大のリスクファクターです。
成長・発育 喫煙妊婦から産まれた子どもは11歳時に平均1.5cm身長が低く、知能指数も低くなり、問題行動を起こしやすいとも報告されています。
c.
呼吸器 下気道疾患(クループ・気管支炎・細気管支炎・肺炎など)発生の重要な原因の一つであり、気管支喘息の発症頻度を増加させより重症化させます。 成人後の慢性呼吸器疾患に罹患するリスクや、肺癌のリスクが高まります。
d.
その他 急性および慢性中耳炎の発生に関係し、造血系の腫瘍の発生頻度が高くなると報告されています。
−3) 対策
妊娠する可能性のある女性への禁煙指導、父親・家族への禁煙・完全分煙の指導が重要です。最近はニコチン代替療法として貼付薬・ガムなどにより禁煙がかなり容易になっています。「子どものために禁煙しませんか」と勧めるか、せめて「屋外での喫煙」の励行を指導します。自動車内の喫煙は厳禁します。 平成15年5月より施行された「健康増進法」には「学校・体育館・病院・劇場・観覧場・集会場・展示場・百貨店・事務所・官公庁施設・飲食店その他多数の者が利用する施設を管理する者は(略)受動喫煙(略)を防止するよう努めねばならない」(=完全禁煙か分煙)と規定されましたが、罰則がないのでこの法律の存在の認識も効果もまだまだ不充分です。
3.
子ども本人の喫煙
未成年者の喫煙は小学校低学年からみられ、中学1年生で20%の者が経験し、その後も急増し、高校3年生では経験者は男子50%、女子35%を越し、そのうち毎日喫煙者は男子で25.9%、女子で8.2%に達しています。(2000年厚生労働省全国調査) 成人に比べて全身臓器への影響がより強く現れ、喫煙開始年齢が低いほど将来癌や虚血性心疾患で死亡する危険性が高くなります。更に、ニコチン依存に成人より短期間で陥り、一旦吸い始めると禁煙がより困難になります。僅か数週から数カ月の喫煙でニコチン依存になる子どもの例もあります。 その対策としては、まず「防煙教育」を幼少時より広く体系的にすすめ、最初から一本も吸い始めさせないことで、その中には友達・先輩にすすめられた時の断り方も含まれます。子どもの将来のモデルとしての大人(特に指導的立場の人)に子どもの前で喫煙する姿を見せない事も大事です。また、先進国にはあまり存在しない「自動(児童?)販売機」により、子どもが簡単にタバコが手に入り得る状況になっており、青森県深浦町で決定したように撤廃されるべきものでしょう。平成14年度より和歌山県から始まり、平成16年度より愛知県立・名古屋市立の学校でも実施されている「学校敷地内禁煙」条例も子どもの周りでは喫煙すべきでないことを明らかにできるので、日本全体での実施が望まれます。
4.
医師として出来ること
「タバコ」はほとんどの医師にとり,日常診療で遭遇する疾病の大きな原因で、予防医学の観点から最大の存在です。また、健康管理においてやその社会的立場などで唯一強力な地位にある医師の役割が、極めて重要なことは言うまでもありません。 まず医師本人のみならず家族・周りのスタッフなどの禁煙から始め、医院・病院・医師会・保健所関係の場などを敷地内禁煙にすれば、一般の人や子ども達に医療従事者としてタバコに対しての毅然とした態度を示すことが出来ます。また子ども達が学び生活する幼稚園・学校・公園なども敷地内禁煙にすべく働きかけて、受動喫煙の害から子どもを守ることが出来ます。 日常診療では、機会がある度に喫煙者には禁煙をすすめ、また子どもの周りでは喫煙しないように指導ができます。
5.
おわりに
2000年のWHOの世界禁煙デーの標語は`Tobacco kills. Don't be duped.'(だまされるな!タバコは人殺しだ)でした。吸っている本人のみならず、周りの人達・子ども達の健康にも悪影響を及ぼすタバコについてまとめました。
参考図書
1)
喫煙と疾患?知っておきたい禁煙指導法とたばこの知識 : 治療,82,No.2,2000
2)
タバコのない社会へ : 月刊保団連,12月号,No.688,2000
3)
たばこによる健康障害?禁煙運動推進のために : 日本医師会雑誌,127,第7号,2002
4)
David Simpson : 医師とたばこ(日本医師会 訳), 2002
5)
タバコから子どもを守ろう : 日本小児科医会 企画・発行, 2003
6)
分煙から禁煙の時代へ : 月刊保団連,4月号,No.818,2004
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